第一章:アストレーゼン

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「…ですよね。まさか経験のある先輩があっさり尻餅をつく筈はない。俺、経験を積みたいんで本腰入れて相手してくれますか?お互いの為にもならないでしょうし」  口達者な後輩剣士。小生意気な顔からして、本気で苛立ってくる。それを狙っているのかは知らないが、彼は生意気にも少女と見紛う容貌で更に煽ってくる言動を放つ。 「俺も勉強にならない事はしたくないんですよ。無駄でしょう。その分遠回りになる」  純粋に言っているのか、嫌味なのか。  本人にしか知り得ないが、その言動は熟練の剣士を更に苛立たせるには十分だった。 「名前、何つったっけ?」  この生意気過ぎる後輩剣士の鼻っ柱を折り曲げてやりたい。  木刀を構え、男は少年を睨み据えた。しかしモヤモヤする男とは裏腹に、涼しげな顔をする少年は落ち着いた様子で答える。 「リシェ=エルシュ=ウィンダートです」 「お前、シャンクレイスから出てきたんだっけなあ?王族お抱えの戦士になりゃ良かったろうに、何か疚しい事でもしでかしたのかよ」  小馬鹿にされているのを自覚しながら、少年は「ここに来るのに、いちいち色んな人に説明して歩く必要がありますか?」と眉を寄せた。 「あんたに関係ないでしょう」  …生意気な。  男は奥歯をギリッと強く噛みながら心の中でそう吐き捨てた。あんたという発言と、後輩の立場のくせに見下す態度が妙に癪に触る。     
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