第1章 魔の国アーネル・パティオ

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寒すぎる。 目が覚めた瞬間、ジャネリ・ルイスが思ったのはそんなことだった。寒いのは苦手だ。手が悴んで動きにくく、仕事が上手く進んでくれないのだ。 ジャネリは溜息をつきながら、その熟れた林檎のように真っ赤な長髪を横でひとつに縛った。 普通の年頃の娘は身なりや服装にひどく気を配るらしい、と聞いたことがある。だが平凡な果物屋の娘であり、生まれてこの方色気など必要としたことのないジャネリには...縁のないことである。 ジャネリは小さく欠伸をして、するりと立ち上がった。 窓の外からは朝の眩しい光が、煌々と差し込んでいた...。 ここはアーネル・パティオという小さな王国。 住民のちょうど半数ほどが『魔力』と呼ばれる不思議な力を持っている。 魔力を持つ人々は幼い頃から専門の学園に強制入学させられ、そのコントロールを叩き込まれる。厳しい教育を受けたそれらの人達は成人すると『魔導師』と呼ばれ、大半が国の重要な役職に就く。 魔力が宿る年齢は人それぞれだが...大抵は14歳になるまでらしい。 今年で15の誕生日をむかえるジャネリには未だその兆候はなく。 「おはよう母さん。今日はまた寒いねぇ」 「おはよう、ジャネリ。そうだね...きっとそう言うだろうと思って温かいスープを用意しておいたんだよ」 ジャネリの母・シャーロットが鮮やかな色の三角巾を揺らしながら、目を細めて微笑む。因みにシャーロットも魔力を持っていない。 ルイス家はシャーロットと長女のジャネリ、その弟で長男のアンディ、次男のエルメス、三男のコウルの5人家族だ。父は魔法系武装勢力『ティアリオ』に3年前に攫われてから行方がわからなくなっている。
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