朝に恋して

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 高校を卒業し、短大に進んだ。そこでも僕は頼りになるサークルの人達と出会って、満ち足りた生活を送れると思った。  けれども、新時代という名の王水が枯れた平成の時代は、溶かされたことにより純度を高めたある物を手渡した。  それは死に到る病。絶望という病だ。  平成という時代に慣れきってしまった人達は、しだいに心が蝕まれていることに気づき始めた様だった。  僕も例外ではなかった。  家庭内での軋轢、それがひどくつらいと思い、学校にいる時間が長くなった。けれども、学校もほんとうの意味で心が安まる場所ではなかった。他のサークルの人に、小説を書くことをなじられ、馬鹿にされ、心穏やかではいられなかった。  僕は逃げ出した。せめて学校の外にいる時くらいはと、家を出たのだ。学校には卒業するまではなんとか通ったけれども、卒業後は社会から逃げた。  こんな事ではいけないのではないかとも思ったけれど、社会生活という物がこわくて仕方がなかった。  これがかつて、希望に満ちた新時代と言われた平成という時なのかと、皮肉に思った。  そうだ、なんだってなんでも上手く行くはずはない。  僕は思った。この平成という時代は、心の病巣が表に出るように、炙り出しているのではないかと。  いまだ偏見はなくならないけれども、心の病という物を治療し、軽減させる医療が昭和の時代に比べるとだいぶ発達したような気がする。  けれども、心の病を抱えている人が沢山生み出され、自殺者も年々増えるこの時代は、やはり純化された絶望を孕んでいるのだと思う。  絶望に気づくこともなく平穏に過ごせる人もいるけれども、気づいてしまった人は、どの様にしてやり過ごすのだろう。  国中に蔓延る死に到る病。僕の元に帰って来た絶望と、僕はどう付き合えばいいのだろう。いっその事、棚の上に飾っておけばいいのだろうか。  そうしたらきっと僕は、自分が綴る物語を、ただただ優しい物に出来る気がした。あの絶望をなぞらないように。表に出さないように。いっその事、いろいろなうつくしい物で包んで、溶かして昇華できるように。
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