母の雪

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今日は、特別に「雪」が降る日だ。 街は1年に1回のイベントで、大賑わいを見せている。この祭りは、故郷を忘れないため行われる宇宙船の中での数少ない大イベントの一つで、「スノーパレード」と呼ばれている。本番当日には、街の大通りに出店がひしめき合い、宇宙船内のほぼ全ての人が祭りの中心部となる中央区画に集まてくる。そしてパレードとついているからには、行進が行われる。贅沢な電飾で輝きを纏った行列は、多くの人を魅了し、宇宙船の喝さいの象徴となっている。パレードを見ていた僕の肩に、花弁のように舞い散る人工「雪」が、ひらりひらりと舞い降りた。 僕は、故郷を知らない。僕は宇宙船生まれで、ここが故郷みたいなものだ。みんなは「雪」を見て、口々に郷愁の思いを垂れるが、僕は全く違うことを思い出す。それは、母のことだ。 僕は、母を知らない。母は「スノーパレード」の日に、僕を生んで死んだ。母の顔すらわからない僕が母を思うときはいつでも、この日と決まっていた。 母は、どんな人だったのだろうか。母は、どんな顔をしていたのだろう。今ここに居たなら、雪を見て故郷のことを思うのだろうか。宇宙船では、全てが循環利用されていると聞く。僕の母は、もしかすると、白い「雪」になったのだろうか。朧げな母を探り探り、肩に落ちた「雪」を捕まえる。僕の代わりに死んでいった母は、確かに実感として、そこにあった。過ぎ去っていくパレードの喧騒を眺める僕の頬に、朧げな白い「雪」がツラツラと流れて行った。
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