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命綱をたぐりよせると、その野太い、決して切れそうにないと思われるファイバーの幾重にも通った綱の先が、ぷつりと切れているのを見るはめになった。
「…ウィル、ウィル。お前が地球から密航した殺人アンドロイドだったのか」
彼はなぜ自分が先にウィルの眼底検査をせずに相手を信用してしまったのか、と悔やんだ。
実は船長から極秘でアンドロイドを見分けて欲しいと頼まれていた彼は、よりにもよって、そのアンドロイドに一杯食わされてしまったのだ。
眼底検査をすれば、普通の人間なら見えるはずの毛細血管が、アンドロイドの場合には見られないのですぐにわかる。そのことはアンドロイド本人が一番よく知っている事実だった。
ウィルは自分の秘密を暴かれる前に先手を打ったのだ。
彼が宇宙船のコクピットの方まで船体をつたって行き、誰かに知らせるしかない、と思ったとき、宇宙船は予定外の航行速度を出した。
無音の衝撃。
くるくると回転しながら船体から離れていく!
彼は虚空にただ一人取り残されてしまった。
それから。
ずいぶん長い時間、彼は漂っていた。
辺りには全く何もない。
真空のただ中に気密服姿でたった一人放り出されて、そのうち上下左右の感覚さえも麻痺しかけていた。
遠くに無数の星の瞬きが見えたが、どれも遠すぎて手が届かなかった。
ただ一つ、強烈な光を放つリゲルを彼は幾度も見た。
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