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水族館は日曜日なだけあってやはり混雑していた。
「……あのさ」
「はい?」
「……あの……今、すごく混んでんじゃん」
「そうですね。日曜日ですし親子連れが多いですね」
「……だから、その……さ、手……繋いでも良い?ほら、はぐれたら困るし」
最後の言い訳みたいな言葉だけを早口で並べる。
事前に確認したのは、まあ偉い。ちゃんと彼なりに考えているらしい。
熊男、成長したじゃんと感心していると、今までのセクハラトークが嘘みたいに彼はそれだけ言ってみるみる耳まで赤く染め始めた。
……やっぱり今日は、中身別人?
宇宙人が彼に化けて、本物の彼は既に死んでいて……そんな下らない話を本気で考えてしまいそうな程今日の彼はいつもの彼と違っていた。
「手、は嫌、です」
「……だよな、やっぱり」と肩を落とす彼。
「でも……指一本だけなら、良いですよ。確かに迷子になったら面倒だし……」
「マジで!?やったっ!」
頬を紅潮させたまま、彼が小さくガッツポーズ。
……そんなに嬉しい事なのだろうか。
「どの指が良い?」
手をパーにして私に差し出す彼はニコニコしながら本当に嬉しそう。
「……じゃあ、これで」
彼の人差し指に私の人差し指を引っ掻けた。
……そして後悔する。
予想以上に私の心を揺さぶった、その行為に。
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