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「なあ、おいって、聞いてるか?お前痩せすぎなんだって。とにかくほら、食えって。何なら俺が食わせてやるか?」
スプーンにご飯とルーとカツを乗せてずいっと私の目の前に押し付けてくる。
真剣な眼差しで言ってくるから、もうどこまでが冗談かは誰も分からない。
「……じゃあ、半分だけ」
彼と戦っても、結局いつも折れるのは私の方。
だから今も溜め息を吐きながら早めに折れて、食べることを選ぶ。
「……いただきます」
「ほら、あーん」
「……それは無理ですから。ほらスプーン貸してください」
ミニカツカレーの乗ったスプーンを彼から取って私が食べ始めると、漸く満足したのか彼もニコニコしながら乗り出していた身を引いた。
半分と言いながら、結局三分の二近く食べてしまったカツカレーはとても美味しかった。
彼の作る料理は実はどれも美味しい。
おばあちゃんが言っていた。
美味しい料理には作る人の愛情がこもっていると。
だから彼の作るものにはきっと、それがたくさん入っているのだろう。
でも、美味しそうに食べると更に壁を壊してきそうで、だから私はいつも不味そうに食べる演技をしている。
食べ終わってからも続く空咳に私は再びマスクをつける。
「ほら、偏食ばかりだから風邪だって中々良くならないんだろ?」
違う。
本当は節約のために病院にも行ってはいない。
そんなお金があったら、食費に回したいくらいに毎月生活費はカツカツだ。
給料日前の今は、豆腐様様。
「……放っておいてください。大熊さんには関係無いことですから」
「無いわけ無いだろ?咳き込んでるウエイトレスなんてみんな迷惑に決まってるだろ?」
「……すみません」
珍しく真っ当な返答と真剣な眼差しに、さすがの私も素直に謝る。
「分かればよろしい」
満足そうに頷き、付け加える。
「帰りに厨房寄れよ、渡したいもんあるから」
「……はい。忘れなけば」
覚えていても絶対に寄ってなどやんない。
そう何度も同じ手口に引っ掛かるか。
前回はそれで、使ってないから炬燵をやると言われ、我が家に運んでもらったまでは良かったけれど……。
「お前、本当に寄れよ?」
彼の念押しに空返事をしながら休憩時間を五分残して私は席を立った。
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