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デートではない。
断じて。
だから、別にいつものジーパンいつものチュニックでも良かったのだけれど昨日の帰り掛け「明日楽しみにしてるから」なんて頬を染めながら言われると、雑な服装ってのはちょっと可哀想かなと仕方無くタートルネックニットとロングスカートの組合わせ。
何やってんだろ……私。
彼の車の助手席に乗り、ぼんやりと窓の景色を眺める。
……?
……!?
「えっ……ちょっと、大熊さん!今高速って……」
高速道路の案内看板に従いながら私たちの乗った車はあっさりとETCバーをくぐってみるみる加速していく。
「そ。水族館行こ、水族館。俺そこで美桜とデートするのが夢でさぁ」
と、デレッとしながら随分と夢見がちに熊男が横で笑う。
……って言うか違うでしょ?
「デートじゃないって言ってたじゃないですか!一ヶ所だけって!」
「だから水族館。一ヶ所だけだろ?」
やられた。
一ヶ所って言ったら普通映画とかショッピングモールで買い物とか、せいぜい二時間拘束コースで済むと思っていた。
だから、仕方無く承諾したというのに。
ここから水族館までは、高速道路使ったって早くて片道二時間。今日は日曜日だから多分それ以上掛かりそう……。
往復の移動時間に水族館の散策とで、今日一体この人とどのくらいの時間一緒にいなくちゃいけないの!?
「そんなの、ずるいです……」
騙された。
これじゃ詐欺だ。
私は不機嫌に窓の外だけを睨んだ。
「えっ、あ……悪い。そっか……我ながら良い考えと思ったんだけど、そうか……これが駄目なのか。すまん」
珍しく、しおらしく謝る熊男。
「一ヶ所って言ったら普通二、三時間で済みそうなとこ想像します……」
「すまん。楽しみ過ぎて、自分の事しか考えなかった」
……いつもの大熊さんとは別人のような言葉。
私は驚きながら彼を凝視した。
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