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それが今日。
ふと何気なくカレンダーを見て気が付いた。
今日は嘗ての特別な日であったことを。
今はもういない大好きだった祖母の誕生日。
いつもの日とは違う特別な日……自分や誰かの誕生日であったり、大切な人との記念日であったり、そんな日があるという事がとても幸せな事なのだと祖母が亡くなってから気が付いた。
私にはその日を祝ってくれる人はもういない。
もちろん祝ってあげたい誰かもいない。
幼い頃に両親は離婚。私を引き取った母の再婚、急に出来た父親と生まれたばかりの妹に私は戸惑った。
思春期の青さが母の不潔を拒絶し、次第に家の中に私の居場所は無くなり、それを気に掛けてくれた祖母が私を引き取ってくれた。その祖母との幸せな日々は、彼女の死であっという間に幕を閉じた。
今更母の家族と住む気にはなれずに、住み慣れた年季の入った家に一人住む。
別にそれが寂しい人生だとか、そんな事は思ったことはない。
ただ時々……人との距離感に少し戸惑う。
大切な人を失う悲しみを知って以来、誰かと密接な関係になるのが怖い。
失う悲しみを味わうくらいなら、二度と大切な人は作らなければ良い。
気付けば誰にでも、いつも冷静に一歩を引いて壁を作ってしまう自分がいた。
もし相手がぐいっと強引に近づいて来ようものなら、私は急速に五歩以上下がって壁を幾重にも作る。
だから未だに恋人も出来ないのよ、と短大の同じゼミの笹木さんが言っていた。
『別に出会いなんて欲しくないから』と合コンを断った私に呆れるように返された言葉に、私は心の中で呟く。
だから何?
恋人がいないことが不幸な人生とは限らないじゃない、と。
私が働くファミレスで客として訪れた彼女を何度か見掛けた。
隣にはいつも恋人らしい男の人がいたけれど相手は見る度に違っていたそれは、幸せなことなのだろうか。
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