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「広告からの妄想」
築3分、 徒歩5年。こんな物件のチラシを見た。
家が建ってからの時間、カップヌードルの如く
3分の速効具合もさることながら
やはり、気になるのは、徒歩5年。
5年あると、一体どれくらいの距離を歩けるのか。
仮に 1キロメートルを15分として計算すると、時速4キロ。
*不動産屋の徒歩×分は、時速約5キロ、相当早歩きらしい。
ええっと、24時間歩いたとして、96キロ。
1年で35040キロ。 それを5年で175200キロメートル。
地球一周、約4万キロとして、 約4周分。
何度もぐるぐるして、もとにモドル感じなのか。
ただし、これには睡眠や食事、休憩その他が含まれてない。
何、電卓出しちゃってんだ、俺。
大体、地球ぐるっと一周ってなんだよ。
単なる 赤道沿い散歩じゃないか。しかも 海は歩けないぜ。
*
もしかすると、放浪者向けの物件なのかもしれない。
5年旅して帰ってきても、3分で組み立てられるテント。
かの吟遊詩人スナフキンは、どのくらいの頻度で
ムーミン谷に 帰省してたのかね。
たかが「誤植」の広告に、ずっと心を躍らせているとは
俺は暇人か? 空想ずきがおかしな人種であることの証のようだ。
まるで悠久の歴史、ロマン、放浪、果てしない行く先。
ああ、5年の間に 何処を歩いてコヨーカ。
飛行機に乗っても、反則にならないだろうか。
目を瞑ると砂漠が見える。らくだに乗って(これも反則か)
どこまでも続く うつくしい砂丘。
砂と風が描く模様が、いつしかハチドリになって 飛び立つ。
車が通らない石畳の道を カッツコツと馬車でゆくと、そこには
美しい二人のゴンドラ漕ぎが、男の俺にまで愛を歌ってくれる。
その透き通る、声の掛け合い。なかなか満更でもない。
*
トローリーバス、ねこ車、ロープウェイ、気球、空中ブランコ。
各国の 素晴らしい乗り物たち。
ふと気付く。ちっとも歩いていない。楽してばかりいやがる。
もはや反則づくし。 貸し自転車も、ありか、なしか。
すこし郷里に寄ってもいい。3度くらい行けそうだ。
各地の きれいなおねえちゃんとの あれやこれや。
気分は まさに船乗り。
港には、俺の女たちが、俺が乗るのを待っているぜ。
妄想は尽きない。 ビバ、5年。
金はどうするんだ。 仕事はどうするんだ。
いい加減戻って来い、自分。
残念だが、昼休みは もう終わりだ。
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