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「心許なく届く声」
声に誘われて恋することって、あるだろうか。
その人の声を想い出すだけで、胸に灯るような熱さを感じることは 。
なまえを呼ばれると、飛びつきたくなる。
低めの声がすき。ちょっと重く響くような弦楽器。
甘めの声もすき。透明なのに、少し掠れた時がまたいい。
すきな人の声をずっと、耳元で聴いていられたらいいのにね。
*
一度だけ、ほんとにただの友だちなのに
声が好みのせいで、恋に堕ちそうになったことがあるよ。
ただの電話での通達事項に、ふらふらしちゃって。くすくす。
気の迷いだから、抑えられてよかった。
私はきっと、逢っている時はちがう処に目を奪われているから
耳から入る声は、少し後から追いかけてくるような気がします。
あなたの声はもう、表情からわかっていて。
男の人は、男の人の響く声をしているから、すきなのです。
胸に手を当てたら、聴かずとも、振動してくるような。
私の声は、どう伝わっているのかな。
喋る声を、歌う声を、甘いねって言ってくれた人。
*
電話をかけるのが、苦手です。
かかってくるのはすきなくせに、めったに自分からかけなかった。
もっと君からもかけてよって、拗ねられた日々。
メールなんてなくて、電話じゃないと進まない時代の恋。
あの緊張感が嫌で、でも勇気を出して。
あのどきどきに胸がしめつけられて、今でも倒れそうになる。
その瞬間、きゅっと耳にあてて
逢えない時間もそこにいるかのように、抱え込むように。
届く電波に乗ってくるひと時がいとしいのに、私は勝手だ。
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