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強張った手がゆっくり引き剥がされる。闇に浮いたその細くて頼りない手を俺は思わず掴んでいた。
「な、なに」
「や、寒そうって思って」
思い切り力を入れたら折れてしまいそうな指を優しく包んだ。
今まで何気なく触れることもあったそれが大切な宝物みたいに見える。体つき同様に華奢な指先は短く爪が切りそろえられていた。
「帰ろっか……寒くなってきたし……っ」
じっとそれを見つめていると、するりと宝物が手から引き抜かれた。翻った背中を追いかけてその隣に並ぶ。志保は左手を自分の右手で掴んで、胸元で組んでいた。
「今日もふたり乗りする?」
「……しない。でも……一緒に帰る……貢平が急いでなかったらだけど」
俯いた志保の表情が硬い。まださっきの風に驚いたことを引き摺っているのかもしれない。二年近い付き合いだけど、志保が案外怖がりなことは知らなかった。
「おう、おっけー。着替えたら自転車置き場で待ってるし」
部室の前で別れると、まだ着替えをしている部員が十人ほど残ったプレハブに入る。ロッカーを開けたところで翔平に「何してた?」と聞かれた。
「ボール引っ掛かってんのが見えたから取りに行ったけど、届かんかった」
「どこ?」
「体育の用具倉庫」
ああ、と翔平も頷く。
「明日俺が行ってみる」
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