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トゥインクルリトルスター
部室の扉は上半分が半透明ガラスになっている。野球部と書かれたプレートが貼り付けられたガラスの向こう、ぼんやりとふたつの人影が並んで見えた。
「今年もチョコ配んの?」
「うん。明高野球部の伝統だもん」
「俺には?」
「ちゃんと別で用意するよ……」
「やった」
プレハブ小屋のアルミサッシはふたりの秘めやかなやり取りさえも筒抜けにする。
中にいるのは明高でミスコンをすれば優勝間違いなしと言われている、マネージャーの橋口カナ。それからキャプテンでエースの辻堂翔平だ。
自転車置き場まで行ってからイヤホンがないことに気づいて戻ってきたのだが、とても入れる雰囲気じゃない。会話を止めたふたりのシルエットが重なり合ったきり動かなくなってしまった。
気づかないふりで思い切って扉を開けるか、それとも今日はイヤホンなしで帰るか……星の瞬く空を仰ぎながら懊悩していたその時だ。
後ろから肘をぐっと引かれた。思わず出そうになった声をなんとか堪えて振り返ると険しい顔をした志保が立っている。
ぐいぐい腕を引かれるままついて行くと、志保は用具置き場の壁にもたれるようにしてしゃがんだ。俺もなんとなくその隣へと腰を下ろす。
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