scene1-1

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 世界は二つに分かたれ、そして平和が訪れた。  おかげで俺は毎日ゴミ漁りを続けている。来る日も来る日も、他の区画(ブロック)から流れ込んでくる不要品の山を掘り起こし、まだ使えそうなものを見つけ出す。そんなことの繰り返しが俺の日常だ。ありがたすぎて、AI様には頭があがらない。  理性の体現者たるAternative Intelligenceは、俺たちに平和と安定をもたらすために、あらゆるものを分別した。壁を作り、あちら側とこちら側をこしらえた。右と左が分けられ、白と黒が分けられ、平凡なものと成功者が分けられた。分割は再帰的に繰り返され、世界には多数の区画(ブロック)ができあがった。同じものたちだけが集まる区画(ブロック)だ。  それぞれの区画(ブロック)の交流は、恒久的に遮断された。もはや世界は壁の中にしか存在しない。壁の外という考え方は、俺たちのような例外を除けば、この世界には存在していない。  俺たちは、各区画(ブロック)から流れ込むゴミを処理しているから、壁の外の存在を知ることができる。しかし、それ以外の人間にとって、世界とは壁の中のことなのだ。それが人間にとって最も幸福なことであると、AIは判断した。そして、その判断に準じて、果敢に施策を断行していった。  彼らは、ひとたび判断を下すと省みることがない。良心の呵責もなければ、評判を気にする虚栄心もない。自分の将来について思い悩み、後悔を避けるように行動修正することもない。完璧な存在だ。かつての人類がそうありたいと望んだ姿だ。
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