scene4-1

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 IDを持たない子供と生活するのは、思ったより難しくなかった。衣類はゴミの山からいくらでも見つけられたし、食事は俺の毎日の食事を少し多めに申請すれば事足りた。もともと小食なので、子供ひとりぶんの食事ならそれで十分だった。  最初は不安だった。これまでカロリー変更の申請をしたことなどない。余計なことをしてAIの目を引くのではと気が気ではなかった。そこで俺は、規範書〈マニュアル〉を徹底的に読み込んだ。そこにはカロリー変更申請についての記載もきちんとあった。過剰摂取にならない範囲であれば、平均摂取カロリーを上回る食事でもAIは許可してくれる。そう、俺たちには太る権利もあるのだ。なんと素晴らしい。とはいえ、あまりにカロリー変更を上の方に繰り返していると、やがてはここではない区画(ブロック)に移されることになる。AIは、俺たちを罰しはしない。区別するだけだ。生活の庇護と引き替えに。IDがそれを保証する。  その子供と幾日か生活をして、おそらく彼女は捨てられたのだろうな、という思いが強まった。なんといっても彼女は利発だった。いや、そんなものじゃすまない。天才・異才と呼ぶにふさわしい頭脳を持っていた。     
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