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俺の言葉を何度か反駁することを繰り返した後、いつのまにか彼女は言葉を話せるようになっていた。正確には、低級言語を話せるようになっていた。みたところ5?6歳くらいで、俺の記憶がたしかなら、その年齢の子供はようやく断片的な単語を口にし始めるところなはずだ。彼女は、最初に覚えた言語以外の言葉を、それも流暢に話せるようになっていた。もはや、俺たちの間にボディーランゲージは必要なくなっていた。
「今日はどこに行くの?」
「ゴミ捨て場だ。他にどこがある」
「そう」
そういって彼女は俺の寝床で本のページをめくり続けている。所狭しと並んでいる本や雑誌、そしてすり切れた日記たちは、すでに彼女に読破されている。俺ですら未読の本が山ほどあるのに、彼女の手にかかれば砂山のように簡単に崩れ去っていく。彼女は貪欲に書物を欲し、そのたびに言葉と知識を蓄えていった。もはや、話し相手としては彼女の方が優位かもしれない。俺ですらちょっとゾッとしてしまう。高級区画に住むような奴らだったらどうだろうか。才能を褒め称えるのではなく、むしろ異端であると忌み嫌うのではないか。それはありうる話だった。
俺は彼女を残して、今日もゴミ捨て場へと向かった。
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