scene4-2

1/1
前へ
/23ページ
次へ

scene4-2

 収穫は二冊の本と、雑誌とノートだった。ノートは意味不明な数字が書き込まれていてまるで意味不明だったが、雑誌と本は低級言語で書かれていて、珍しく俺が最後まで読み通せるものだった。ありがたい。彼女は喜ぶだろうか。すでに高級言語と低級言語のどちらでも読み書きできるので、別段気にはしないだろうが、それでも読み物が増えれば、表情に乏しい彼女でもはっきりとわかる喜びが顔に表れた。  俺は、自分が他の誰かのことを考えて嬉しくなることに意外な感覚を覚えた。ゴミ漁りにとって他人は競争相手でしかない。なるべくは争わないようにテリトリーをずらし、どうしても重なるときにはできるだけ早くゴミ漁りにでかけて必要なゴミを獲得する。毎日が、そういうゲームの繰り返しである。奴らは俺で、俺は奴らなのだ。  でも、彼女は違った。彼女は俺ではなく、であるからこそ、彼女に微笑んで欲しかった。俺は少しずつとち狂っているのかもしれない。そんな感覚はまるでないが、狂人は自覚を持って狂っていくとは限らない。それは病気ではないのだ。それは変移であり、地面がまるごと動くようなものである。地面の上にいる人間がそれに気づくことはないだろう。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加