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scene1-2
まず最初に、神と世界が切り離された。神は、壁の向こうへ追いやられ、世界に干渉する術を失った。世界もまた、神を知る術を失った。
ではなぜ、俺は今こうして神について語っているのだろうか。
それは俺がゴミ漁りだからだ。流れ着いたゴミの中には、本と呼ばれる旧式の情報媒体があった。きわめて原始的な媒体ではあるが、AIの情報制御からは離れている。おかげで古い情報にもアクセスできた。彼らがこの世界に平和をもたらす前の世界──諍いと、争いと、戦争の歴史──がそこには記述されていた。
今どき手に入るのは、今どきの情報だけだ。さかのぼれてもせいぜい5年か10年だろう。それよりも古い記録は不要だとAIは判断した。
彼らは情報アクセスの頻度に応じて情報を整理し、分別する。あまり参照されない情報はインデックスの奥深くに隠してしまう。そうすることが、俺たちにとって幸福だと彼らは「知って」いるのだ。実際その通りなのかもしれない。過去のことを知ったって、現在に幸せが訪れるわけではない。むしろ、いらぬ不満が積もるだけだ。
それでも俺は考えてしまう。神とは一体どのような存在だったのだろうか。人々はそれを崇拝していたと本には書かれている。その「崇拝」とは何のことだろうか。俺たちがAIに抱いている気持ちと近しいのだろうか。まったくわからない。
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