scene3-2

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scene3-2

 他にできることもないので、俺はその子供に話しかけた。「おい、大丈夫か」  しかし返事はない。よくみると、腕にコールバンドをしていない。俺は自分のバンドを指さした後で、子供の腕に指を向けた。しかし子供は、ぶるぶると顔を振るばかりだ。持っていないのか。だとしたら言葉は通じない。そもそもIDすら持っていない可能性がある。いや、さすがにそれはないだろう。この世界でIDを添付されない子供はいないはずだ。  もしかしたら、どこかの高位ブロックから流れてきたのかもしれない。そうした区画(ブロック)では人間を管理するためのコールバンドが使用されていないらしい。そこからどこかの区画(ブロック)に移動させられることはあっても、その区画(ブロック)に移動することはないので、言語調整のためのバンドも必要ないらしい。  そう理屈づけてみるものの、そもそも人間がゴミとして流れてくること自体が異常事態なのだ。これ以上うだうだ考えても仕方がないだろう。俺は、本から掻き集めた知識で、なんとかハイソな言語を構成した。 「Hey!Say!」   大声で繰り返すが、子供はぽかんとした表情を浮かべ続けている。クソッ。これでは言葉が通じていないのか、それとも俺が無意味な高級言語を発しているのかの区別がつかない。他の言葉はないかと考えていたら、何かが俺の耳に侵入してきた。音だ。それも区切りのある音だ。それは「Where is this」という声だった。  あまりにもか細い声だったので、本当に目の前の子供が喋っているのかがわからなかったが、この状況で言葉を発する存在は目の前の子供しかいないし、人間は理解しない言語の幻聴を聞くことはないので、この推測に間違いはないだろう。そのとき急に目の前の子供が少女であることに気がついた。それも美しい少女だった。顔立ちは幼少期特有の中性性を帯びてわかりにくいのだが、声ははっきりと女性だった。声は性的なのだ。
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