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3.
右から流れてくる書類に目を通し、左へ流していく。
1日2、3通の業務メールに無機質な文章で返信する。
伝票に確認の印を押しては上長へと手渡す。
8時半に出社の登録を行い、5時半に退社の登録を終えて事務所を出て行く。
みさ子は普通の事務員だった。就職して2年間、最初はあった戸惑いも一年間特に起伏のない業務の全容が見えると安堵した。
特別でなくて良いのだ。こうして普通の日常の中でたまに同僚と飲みに行ったり、休みにUSJに行ったり、そこまで時間がなければ珍しいスイーツを友達と一緒にインスタへあげるくらいでちょうどいい。
そんな普通の事務員の日常に特別が加わってしまった。それこそ父の見舞いの時間だった。普通に流れていた彼女の日常に向けて、隣から漏れ伝わる”特別“が時折ノックしてくるように感じてしまう。
これまでは父の口癖にくっとまぶたを閉じるだけで済んできたのに、特別な一日を知る者たちが実像を伴って主張してくるのだ。
変わり映えしようがない病室の中にたくさん人が代わる代わる訪れ、それぞれが彩りを添える話を土産に携えている。それは傍目から見ていてもはっきりわかり、みさ子は何故か悔しくなった。こんな場所に閉じ込められていても、父の1日はやっぱり特別なのだ。
見舞いに行くたび、まるで普通の生活を望む自分がずっとつまらない人間であるように見えてきてしまう。普通の何がいけないのだと、彼女は寂しくなった。
キーボードを叩いている時、まぶたをくっと閉じる。
スイーツを前にして、まぶたをくっと閉じる。
みさ子はやっぱり、父の言葉が嫌いだった。
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