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「みさ子」
父に声をかけられたのは、ベッド横の棚の一番上に新しいバスタオルをセットしている時だった。
「すまなかった」
入院から一ヶ月半が過ぎていた。確か栄養剤の点滴が始まったころだったというのは彼女の記憶。
みさ子は何かを謝罪した父の表情を見ていない。戸棚を閉める手を一瞬止めたが、すぐに中段の棚に着替えを入れ始める。
「みさ子には何もしてやれなかった」
「なにそれ」
笑い混じりだ。思ったより冷たく口を突いて出てしまった。特に何かを頼んだ覚えもないと言うのは、きっともっと冷たい娘が使う言葉だと思って止める。
そして、”やれなかった“と勝手に完結させにかかるのをやめて欲しかった。
「家族旅行とか、おれは勝手に憧れてたんだけどな。言い出せなくてなぁ」
やめて欲しい。
「就職、近くの会社で家から通うのが決まった時はな、嬉しかったんだがな」
やめて欲しい。
「表では特別特別って言いながら、家では何も出来ないダメな奴だったからな」
「やめてよ」
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