2.

1/6
前へ
/16ページ
次へ

2.

前向きで素敵なお父様ですね。 みさ子がそんな言葉をかけられたのは父の入院から、何日後のことだったろうか。父が入浴の時間で不在の間、ベッドのシーツ交換をしに来た看護師からだった。 『今日は特別な日ですから』 この言葉をこの病室でも訴え続けているのを聞き、みさ子は一瞬固まってしまった。 そうですねと肯定も出来ず、そうですかねと謙遜も出来ず、そうですかと多分不器用な笑みを浮かべてこの話題から距離を取ることしか出来ないでいた。 今日という日が特別であるようにどんな時でも考えたいなんて、なかなか入院されてる患者さんから出る言葉じゃないとか、流石先生だとか、爽やかな笑顔で語る看護師にそれ以上なんと返せば良いのかわからない。 看護師からすれば娘の自慢の父親を讃えているのだろうけれど、みさ子にとってそれは友達の友達の話題を持ち出されている以上に関心のないことだった。 この空間での特別などどこにあるというのだろう。変わらない景色、満腹にならず噛み応えのなさそうな病院食のラインナップ、点灯と消灯に管理される時間の流れの中で、悪あがきに使う言葉だと思った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加