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「教頭先生がいないと、職員室がなんか締まらないんですよ、サッカー部の奴らの話聞きましたかね、あんな感じに司令塔がいないんです」
今日みさ子は個室に入ることなく、静かに入り口で見舞いに来た同僚との話を聞いていた。盗み聞きしたかったわけでなく、同僚教師の口ぶりが神妙で自然と入っていける雰囲気ではなかった。
「特に問題があるってわけじゃないんですけどね、でもどこか淡々とし過ぎているんです。教頭先生がいる時は生徒の話題でも先生同士の世間話でも学年を越えて出ていたのが、小さくまとまっていてーー」
見舞いに来ているのはどうやら父が不在の間に教頭の役割を代行している同僚らしかった。その後も、自分は教頭先生のような力はないだとか、自信がなさそうな話をたくさん並べ立てていった。
「何か一つでもいいんだ」
父が口を開いている。
「何か一つ、その日にしかなかったことを見つける、もしくは生徒に見つけてやれないだろうか」
「教頭先生得意の”特別な一日“ですね」
「自分にとっては大した日ではないかもしれない。でもたくさんの生徒がいれば必ず毎日が誰かの誕生日だし、先生たちの結婚記念日だってあるだろう。昨日は解けなかった問題が解けた生徒もいる。昨日越えられなかったハードルを越えられた生徒がいる。生徒にとっての特別は毎日起きる、それを大きく取り上げてやれるのは私たちしかいないはずなんだ」
今日も、明日も、明後日も、誰かにとって特別な日だ。
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