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 あぁ、この町もバレンタインなんだ……。町をよくみると、あちこちでバレンタインの恒例行事がおこなわれていた。チョコの人形がチョコの人形にチョコを渡して、チョコ同士抱き合って、チョコ同士手をつないで……。一組のチョコのカップルがお店の中に入る。洋服屋だった。女の子がドレスを両手にもって、男の子の反応をうかがっている。きっと女の子は、楽しくて仕方ないだろう。自分を愛してくれる人と、恋人たちの祭日に、大好きなお洋服を選んで。少しで相手に自分のことを好きになってほしくて、服も相手の趣味に合わせて、彼は私を愛している、私は彼に愛されている、そんな、薄っぺらい安心感に甘えて、知らないうちに自分の中にあるものをすり減らしていって……。女の子と男の子が手をつないで家の中に入った。  私の両手がテーブルをなぎはらった。家が、学校が、遊具が、人形が、恋人たちが、粉々になって地面に落ちていく。ぼとぼとの、ぐしゃぐしゃの、ばらばら。私は自分のしたことに驚いた。廃墟になった町はひどく荒んで、退屈で、悲しかった。  ふわふわした感覚はとっくに抜けて、けだるさと徒労感がのしかかってくる。  私が夢から覚めるのを待っていたかのように、いやなことが頭の隙間に入り込んでくる。安っぽい蛍光灯。ごつごつした手。生ぬるい吐息。疼痛。嘲笑。陰口。冷たいトイレ。うるさい教室。背中に刺さる言葉。居場所のない家。束縛。押しつけ。無関心。規則。腫れた頬。手首に流れる血。引き裂かれた人形。真冬の光。  もうやだ。楽しくない。おもしろくない。全然ステキじゃない。こんなとこいたくない。
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