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 隣のテーブルにはチョコの家が建っている。小さな子供なら入れそうなくらい大きい。チョコスティックが折り重なった壁面。屋根はカラースプレーで彩られている。壁に掛けられたスコップ――これもチョコレート――で壁面を崩してみる。丸太のようなチョコスティックがバリバリ音を立てて砕け、中からクッキーの内壁。これもざくざく壊してみると、中の部屋までしっかりとつくられていた。壁には緑や赤、黄色の星のデコレーション。ウエハースのテーブルとチョコバーのソファが置かれ、床には積み木やボール、子供のおもちゃが転がっている。こんな家に住めたら、ヘンゼルとグレーテルが隣に越してきても負けやしない。……いや、一体なにを争うつもりなんだろう。しょうもない空想に、一人ほくそ笑んだ。  砕いたチョコスティックの破片を食べながら、家の周りをぐるりと回ると、裏手に大きな木が生えている。これももちろんチョコレートで、表面の皺が細かく刻まれている。空中に広がる枝には、一枚一枚造形された葉っぱが茂っていて、その葉をめくってみると、トリュフチョコの実がひっそりと垂れていた。茶色い実、白い実、緑の実、赤い実。ひとつとってかじってみると、中にはぎっしりつまった生クリーム。葉っぱを一枚ちぎって食べてみた。ぱりぱりとした感触が楽しくて、一枚、また一枚とちぎってしまう。ふと見上げると、枝の上に小鳥がとまっていて、小さな口で赤い実をくわえている。私もそばにあった赤い実を摘んで口に放ってみたら、口の中がぎゅうぅっとしぼんで、ひりひりとしたものが喉を流れていった。赤い実にはウイスキーが入っていた。
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