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 どうせ誰もいないから、大げさに笑ってみた。お腹にたまっていたものが少し出ていった気がした。ひとしきりわらって、ゆっくりと息を吐く。なんてステキな場所にいるんだろう! ……私の想像が、甘いチョコレートで形になった世界。おもしろくて、おいしくて、いやなことは何もなくて、体が軽くなった感じがして、こんなに楽しいけど、まだまだ楽しいものはいっぱい残っているなんて……。  チョコレートの木の下を出たとたん、パンッ、と音がして、後頭部にびしびしと何かが当たった。びっくりして前によろけて、その拍子に段差に足を引っかけた。私は絨毯がしかれた床の固さを想像し、次の瞬間おそってくる顔面の痛みを覚悟した。けれど、私が突っ込んだのは小さな粒の海だった。ざらざらざら、とビー玉をぶちまけたような音が耳に流れ込んだ。痛くない……顔を上げると見渡す限り赤、青、緑、黄色、オレンジ……マーブルチョコのプール。私が起き上がると、色鮮やかな糖衣でコーティングされた粒が乾いた音をたてる。私の背後にあったテーブルで、クラッカーが細い煙を吐いていた。床には大量の麦チョコが転がっている。二つの関係が結びつくより先に、視界に何かが飛び込んできた。  ピエロだ。いろんな色で着飾った、手のひらサイズのピエロが、ヒョイヒョイと麦チョコを拾い集めていく。ピエロはあっけにとられている私の方をみて、おどけるように肩を揺らす。「エッヒッヒ」と笑った気がした。バッタのようにぴょんぴょん跳ねてテーブルの上に跳び乗る。テーブルの上にはチョコでできた遊園地のジオラマ。私がマーブルチョコを蹴散らして近づくと、ピエロはジャグリングを始める。ピエロはふぞろいな形の麦チョコを、きれいな軌道を描いて回した。顔のチョコプレートに描かれたおどけ顔で、ピエロは私を見つめる(たぶん)。私は戸惑いながらも、目の前で起こっていることに対して不思議と冷静で、麦チョコの軌道を目で追っていた。そのうちピエロはジャグリングをやめて、麦チョコの一粒を手に持って、おもむろに自分の背後に向かってぶん投げた。ヒューン。麦チョコがチョコチップクッキーの観覧車の中心に当たる。すると、観覧車はゆっくりと回転し、チョコレートの遊園地がはじめる……。
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