1

8/13

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 カカオ農園を離れて、何を探すともなく歩いていると、プレゼントボックスが積まれたテーブルに気が付いた。箱の中にはいろんな種類のチョコが入っている。さっき一通り開けたはずだけど、一つだけ手を付けてないのがあった。落ち着いたピンクカラーのハートボックス。どうして気づかなかったんだろう。散々遊んだから、さっきほどわくわくしなかったけど、せっかくだから開けてみた。中には10個のチョコが並んでいた。コイン、ドレス、パン、家、ハート、剣、花、ひび割れたハート、人間、宝箱。私は何も考えずにハートのチョコをつまんだ。やけに甘くて、でも、酸っぱさと苦さがどこか混じっていた。私の口の中で、チョコが形をなくして溶けていく。次はどれにしようかな。箱の中を見ると、他のチョコの形が少し変わった気がした。ドレスは派手になって、花は小さく、割れたハートが大きくなっている。それから、箱の色が少し悪くなった気がする。他の箱はこんなことなかったのに。不思議に思って、ちょっとわくわくして、人型と宝箱を一緒に食べた。甘いのと、しょっぱいのと、切ないのと、あったかいのが口の中に広がった。何これ……気持ち悪い感じが喉を抜けて胃に落ちた。残りのチョコが、またおかしくなる。ドレスはやりすぎなくらい派手になって、剣は鋭くなり、ハートのひびは大きくなって割れてしまいそう。花はしおれて、コインが震えた。ちょっと怖い。でも、好奇心を胸にとどめていくのは、すごくつまらない気がしたから、これで最後にしようと思って、パンの形のチョコをとった。すごく甘くて、満たされる感じがした。これだけもっと食べたいな。なんて思ったら、ドレスがぼろ衣になって、家は崩れて、お金はどこかに吹き飛んで、ハートは真っ二つに割れて、花は腐って、剣は折れて、ハートボックスがみるみるしぼんで、枯れた花弁のようなごみになってしまった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加