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 パウダースノーがちらついて、真っ赤に装飾されたモンローストリートが色めき立つ。 “2月14日は、わたしとあなたの記念日です”  甘いチョコレートと、甘ったるいクリシェに囲まれて、女の子たちはショーケースの前にかがんで胸ときめかせている。その背中を次々と通り過ぎていく私は、五センチの厚みがこもった足音とともに、かしましい喧噪の中に紛れている。すれ違う女の子たちの瞳には、色んな“誰か”が映っている。友達、彼氏、気になるあの子。父親、同僚、なんでもないクラスメイト。十人十色で、みんな一緒。街を染めている赤色が一瞬いやらしく感じたから、地面のタイルを一つ飛ばして歩いた。――私の目には、ステキなものしか映らない。  待ち望んだ角に飛び込むと、心慣れしたパステルカラーの坂道も2月14日を意識していて、ミルキィホワイトとスイートブラウンのデコレーション。私とおそろい、この日のためのコーディネート。坂を登れば、かわいいものでいっぱいのキューティ・モンスター・パレスが、そのケバだった口へ私をいざなうの。 いつ来ても、めまいがしそうなくらいステキなものに満ちたフロア。アシッドティア―のチョーカー、ピンキー・リリィのヒール、センチメンタル・バタフライのドレス……そんなファッションに身を包んだ、白い腕がうらやましいマネキンたちを振り切って、プリティ・ポップのアイスクリームも今日は我慢して、私はエレベーターの箱に収まる。体が上昇していくのを感じながら、壁のポスターをじっと眺めた。イベントの日付は「2/14 Valentine」新しいおもちゃのパッケージに書かれた説明文を、帰りの電車で何度も読み返すときのような気持ち。白いエレベーターは、私を夢の園に運ぶゴンドラ。天国のベルが鳴って、9階のランプが点いた。私はできるだけ落ち着いて、駆けだしそうになるのを抑えて、フロアに足を踏み入れたら、あぁ……現実が、輪郭を失って消えていく気がした。
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