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「この薄情者どもめ!」
俺はそう言って家を出た。
◇
朝。寝ぼけ眼を擦りながら階段を降り、1階に向かう。
すでに朝食の良い匂いが家中に漂っていて、俺本体よりもまず腹の虫が先に目を覚ました。
朝食は既に食卓に並んでいて、俺より先に下りてきていた家族達がすでに食べ始めていた。
少しぐらい待っててくれたってよくね?確かに俺もちんたらしてたけどさ。
「やっと下りてきたのね、お寝坊さん」
母親は俺の顔を見るなり、冷蔵庫から食パンを2枚取り出した。
ウチの朝はパンと決まっている。
俺は自分の席に座った。
ふと、隣に座る父親の朝食と一緒になって並んでいる見慣れないものが目に入った。シック風の洒落た箱と、キュート系の小さな袋。
ちなみに、箱の方には有名店のロゴがプリントされている。
「なにそれ」
俺の疑問に答えたのは答えたのは生意気な妹だ。
「チョコよ」
ふむ。
俺は自分の朝食を見渡す。
食パンを置く用の大きめの皿。スープが入った深めの皿。サラダが入った小さめの皿。えとせとら。
「俺のは?」
「え? なんでお兄ちゃんにあげなきゃいけないわけ?」
と、心底不思議そうに言いやがる。
お兄ちゃんと呼ぶくせに、敬われている気は全くしない。まぁ今に始まったことじゃないし、こいつに尊敬されても嬉しくはないけれど。
「2つってことは、お前とおかんのだろ?」
「そーだよ」
「おかんはともかく。なんでお前はおとんにあげるのに俺にはないわけ?」
「何言ってんの。義理チョコって日頃のお礼も兼ねてるわけじゃない? いつもお仕事お疲れさまありがとうって意味よ」
いつも本棚の漫画読ませてくれてありがとうのチョコはないのか?
ってか、おい、親父。なんだその絶妙に腹立たしい顔は。そんな顔で俺を見るんじゃねぇ。惨めになるわ。
「俺にはないのか、愛すべき妹よ」
妹は一瞥し、ハッと鼻で笑っただけだった。誰に似たんだその性格の悪さは。畜生め。
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