2月14日(水)

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不毛だと悟った俺は次に照準を合わせる。 「おかん! おかん? 俺にチョコは!?」 「愛すべき息子を糖尿病にするわけにはいかないのよ」 「ならねぇよ!」 「生活習慣病はそういった油断から生まれるのよ。気をつけなさい、愛すべき馬鹿息子」 「親父の方が危ないだろ!」 「それよりも愛が上回っただけの話よ」 おい、親父。なんだその殴りたい面は。 そんな顔向けられたって微塵も羨ましくねぇわ畜生が。これからも夫婦仲良くやってろクソッタレ。 「あんたはこれで我慢しなさい」 母親はほどよく焼けた食パンを皿においた。 甘いイチゴジャムが何故か涙を誘ってきた。甘い。甘酸っぱい。 そして冒頭に至る。  ◇ 世の中狂ってやがる。声を大にして叫びたい。 バレンタインってあれだろ?女子が男子にチョコを渡す日だろ?日本では。 なのになんで俺らより女子の方がチョコもらった数多いんだよ! いと悲し。 誰か俺に心のエネルギーを補給してくれ。今日の俺はチョコでしか動かないのだ。 「無様だな」 休み時間。甘い匂い漂う教室にいられなくなった俺は、廊下の隅に蹲るように腰を下ろし、死んだように時間を潰していた。 声をかけてきたのは隣のクラスの知り合いだ。中学の頃からの知り合い。思い出話は共有できるが、あくまでも話だけで当時の気持ちまでは共有できないできない。こいつは俺の敵だ。 現に今、そいつは抱えるようにしてチョコの袋をいくつも抱えている。 「……クソ野郎め」 「遣ろうか?」 「いるかボケ!」 そいつは進行方向に向いていた体勢を俺に向けたかと思うと、俺の隣に膝を折り曲げて座った。上半身と足の隙間に抱えていたチョコの山をそっと置く。 そして、一番上の袋を開けて中のチョコをつまみ上げ、そのまま口に運ぶ。貰えていない俺へ見せつけているのか、と卑屈になりたいところだが、多分無頓着なこいつのことだ。腹減ったぐらいしか考えていないだろう。
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