8人が本棚に入れています
本棚に追加
不毛だと悟った俺は次に照準を合わせる。
「おかん! おかん? 俺にチョコは!?」
「愛すべき息子を糖尿病にするわけにはいかないのよ」
「ならねぇよ!」
「生活習慣病はそういった油断から生まれるのよ。気をつけなさい、愛すべき馬鹿息子」
「親父の方が危ないだろ!」
「それよりも愛が上回っただけの話よ」
おい、親父。なんだその殴りたい面は。
そんな顔向けられたって微塵も羨ましくねぇわ畜生が。これからも夫婦仲良くやってろクソッタレ。
「あんたはこれで我慢しなさい」
母親はほどよく焼けた食パンを皿においた。
甘いイチゴジャムが何故か涙を誘ってきた。甘い。甘酸っぱい。
そして冒頭に至る。
◇
世の中狂ってやがる。声を大にして叫びたい。
バレンタインってあれだろ?女子が男子にチョコを渡す日だろ?日本では。
なのになんで俺らより女子の方がチョコもらった数多いんだよ!
いと悲し。
誰か俺に心のエネルギーを補給してくれ。今日の俺はチョコでしか動かないのだ。
「無様だな」
休み時間。甘い匂い漂う教室にいられなくなった俺は、廊下の隅に蹲るように腰を下ろし、死んだように時間を潰していた。
声をかけてきたのは隣のクラスの知り合いだ。中学の頃からの知り合い。思い出話は共有できるが、あくまでも話だけで当時の気持ちまでは共有できないできない。こいつは俺の敵だ。
現に今、そいつは抱えるようにしてチョコの袋をいくつも抱えている。
「……クソ野郎め」
「遣ろうか?」
「いるかボケ!」
そいつは進行方向に向いていた体勢を俺に向けたかと思うと、俺の隣に膝を折り曲げて座った。上半身と足の隙間に抱えていたチョコの山をそっと置く。
そして、一番上の袋を開けて中のチョコをつまみ上げ、そのまま口に運ぶ。貰えていない俺へ見せつけているのか、と卑屈になりたいところだが、多分無頓着なこいつのことだ。腹減ったぐらいしか考えていないだろう。
最初のコメントを投稿しよう!