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幼馴染みの顰めた顔を見ていると、俺はふと気づかされた。
前までは問答無用で強請ったこともあるが、もうそれも失礼なのかもしれない。家が近いせいというか、互いに親しい親同士の繋がりで相手の事情やら状況をなんとなく知っていたが、さすがに彼氏云々彼女云々の話は繋がりで知ることは無い。
真面目で石頭のこの幼馴染みが誰かに好意を抱くなんて、ずっと知ってる俺からすればもはやあり得ないぐらいの話だけれど、でもなんらおかしくない話だ。
逆に厳しくも面倒見が良いこいつに誰かが好意を抱き、なし崩し的にということもあるかもしれない。
そしたら、こいつは他の誰でもないその相手に本命を渡すことになるんだろう。
もしかしたら俺が知らないだけで、もうそういう相手が居るのかもしれない。
まだまだ年端もいかないお子様だけど、もうそれがありえなくない年になってしまったらしい。
この幼馴染みは良い奴だ。それに気づく奴はいっぱい居るだろうし、それに惹かれる奴も居るだろう。
律儀で、親切で、丁寧で、温かくて、気が強くて、少し人見知りして、かっこつけで、繊細で、負けず嫌いで、甘え下手で、変なとこ根に持って、変なとこで子供っぽくて、変なとこで意地っ張りで、でも包み込む深い優しさがあって。こんな良い奴だって、いい女だって、誰よりもこいつのことを理解してるのは、俺ぐらいしか居ないだろうに。
幼馴染に愛称を呼ばれ、俺は我に帰る。
「どうかしたの?」
「……いや、なんでもない。押しかけて悪かった」
俺は手短にそう言って、無頓着な友人を引っ張りつつ彼女のもとを去ることにした。
元々今日という日はもともと嫌いだったけど……なんだかな。
変なことに気づかせた今日は特に嫌いだ。
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