洒落たバーでカシオレを頼んだ男の話

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ドアを開けた途端、店中の客が“馴染みのない”僕を一斉に見るんだろうか。 それとも、一人ぼっちのさえない男が来たと、影から指を差すんだろうか。 そう考えただけで、ドアノブを握る僕の手は凍ったように固まってしまう。 そんな僕の手を暖めるのは、今から一週間前に起きた出来事の記憶だった。  ※ ※ ※ ※ ※ ここの向かいには、一軒の居酒屋が建っている。 あの時の僕たちは、そこから出てきた。勤めている営業会社の付き合いだった。 ほんの些細な無礼から“上司の酒”を浴びるほど飲む羽目になった僕は、もう限界だった。 ふらつく僕に同僚が手を貸そうとしてくれたが、彼らに迷惑をかけたくはなかった。 次の店で標的になるのは、おそらく彼らのうちの誰かなのだから。 僕は一人で帰ろうと最後の力を振り絞り、なんとか断りを入れた。 彼らの背中を見送ったあと、僕はすぐさま道の上に伏した。 吐しゃ物がコンクリートの上に散らばるのを見て、すべてがどうでもよくなった時。   その人は白いハンカチを持って現れた。
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