洒落たバーでカシオレを頼んだ男の話

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覚束ない足取りで帰ってきた、家賃3万の安アパート。 紐をカツンと引くと、蛍光灯が散らかる部屋をのっぺりと照らす。 僕は敷きっぱなしの布団に、汚れたスーツのままダイブした。 冷静になるや否や、僕はとても反省したんだ。 親切の行為、親切から目を背けた行為。 泥酔した見ず知らずの男に手を差し伸べてくれた人に―― 僕は、「ありがとう」を言えなかった。  ※ ※ ※ ※ ※ ふたつの意味で苦い、あの時の記憶が今の僕を突き動かした。 大きく息を吸い込んで、重く冷たいドアノブを勢いよく回す。 そのまま勢いがついて、ドアがバタンと大きな音を立て開いてしまった。 “さっそくやってしまった!” そう思い辺りを見回したが、誰もこちらを見てはいなかった。 安堵した僕は、挙動不審に席を探す。
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