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若干狭めな店内は、老齢のマスターが立つトラディショナルな4席分のバーカウンターを設えていた。
奥には4人掛けと2人掛けのテーブル席がそれぞれふたつ。
客は大きな席に3人ほど。僕は一目散に、2人掛けのテーブルへと向かう。
テーブルは無垢材を用いた温もり溢れるもの。良い肌触りだ。
椅子は少し固かったが、敷かれたチェックのクッションがここのマスターの親切心を感じさせる。
僕は椅子に深く腰掛けて、震えを落ち着かせた。そして言った。
「すみません」
聞こえていないようだ。
「すみませんっ」
マスターがこちらを向いた。やがて彼は僕の前へとやってきて、静かだがはっきりと聞こえる声で言った。
「お決まりですか」
「……カシオレ……ください」
マスターは「カシスオレンジですね」と返す。
なんだろう、少し気恥ずかしい。
やはりと言うべきか、僕なんかにスマートな注文なんてできるわけがなかった。
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