洒落たバーでカシオレを頼んだ男の話

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左手につけた腕時計。時刻は10時を回っている。先週のあの時よりも、まだ1時間早い。 明日は世間でいうところの休日にあたる。 あの人がここを訪れるとすれば、先週と同じ曜日の今日だろう……と僕は踏んだ。 今、この店にいる他の客は会社帰りと思しき男女が3人。 雰囲気の良いジャズが流れる中、なにかの話に花を咲かせていた。 あの人はまだ現れていない。居心地の悪さにそわそわしつつも、僕は紙袋の紐を握りしめていた。 紙袋の中身は、新しいハンカチだった。 今日僕がここに来たのは、決して“ショットバー・デビュー”をするためじゃない。 あの人に「ありがとう」と言うためなんだ。
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