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「バレンタイン? 何それ、おいしいの?」  そんな風に世間から目を背けていた時代が、俺にもありました。  バレンタインの味など今でも知らないけど。  お菓子メーカーの商業戦略に皆が踊らされるあの日。俺こと如月怜人も、毎年それは踊りに踊らされていた。女子からのチョコレートは当然欲しい、それもできればたくさん。だけれども、そんなことを声高に叫ぶのは気が引けて、外面を取り繕って内心でのみ期待してきた我が人生。  何度期待を裏切られてきたことか。  期待しては裏切られ、よせばいいのに裏切られては期待して。バレンタインデー翌日は世界を本気で呪い猛毒を吐き散らし。その翌日にはバレンタインなんて存在しないんだと現実逃避に走り。そのまた翌日にはそんな自分に自分で引いた。  そして、あるとき悟らざるを得なかった。  見た目は地味、勉強は並、運動は平均、生まれも育ちも一般家庭、もちろん学校でも影がなんか薄い。そんな俺がバレンタインに異性からチョコレートをもらうなどということは、宇宙が誕生するのと同レベルの奇跡でしかない。  夢を見続けて良いのは子供だけの特権だ。  そう。現実をしかと見るのが、大人の対応というものだろう。 「だから、高校に上がった今の俺は、バレンタインなんてものに振り回されることしないのさ。うん、実に穏やかな気分だ」 「……とりあえず、長々とした言い訳ご苦労さま」  学校からの帰り道。   道すがら俺が真理を説いていると、千代田聖は呆れた顔を隠そうともしなかった。 「あのさ、怜人。一つ良いかな」 「なんだよ」 「たまたまバレンタインセールをしていた店の前を通ったからって、そんなに動揺することはないんじゃないかな」 「な、なんのことかな。俺は至極冷静だぞ、うん。超クールだ、むしろクール過ぎて凍傷になるまである」 「至極冷静な人間は、自分が冷静であることをむきになって主張したりしないよ」  さすが、長年の付き合いを誇る幼馴染。  聖はピンポイントで痛いところを突いて来た。今年もバレンタインが近付いている昨今。いざ華やかにに並べられたショーウインドーや看板を目にした途端に、前後不覚に陥ってしまうとは。  おかげでいらんことをベラベラ喋ってしまった。
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