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「怜人はこの時期になると、いつも挙動不審になるよね」 「ほっとけ。俺の苦悩はお前には一生理解できないだろうさ」 「要するに、チョコレートがもらえないから悔しいんだよね」 「はっきり言うな!」  切れ味良くばっさり一刀両断されて、俺はつい声を荒げてしまった。  だが、聖は気にした様子もない。 「まあまあ、僕だってバレンタインが近付くと毎年少し憂鬱なんだよ?」 「ほう。それはまた何でだ」 「また食べきれないほどのチョコの山を、もらうことになるのかなあと思うとね。ありがたいけど困っちゃうよね」 「それは宣戦布告と受け取っていいのか?」  この整った顔立ちをした幼馴染は、とにかく昔からよくモテた。  才色兼備で学業はいつもトップクラス。引き締まった長い手足の持ち主で、運動神経も抜群。バスケ部のエースとして活躍して、我が校の黄色い声援を独り占めしている。ついた二つ名が学園の王子様だ。  バレンタインの日には、チョコを渡しにくる女子が長蛇の列をつくるのが通例である。 「でもさ、怜人って今までバレンタインチョコもらったことなかったっけ?」 「ねえよ。義理チョコの欠片一つすらな」 「ふーん」  街はすっかりバレンタインに浸食されていた。お菓子屋やらスーパーやらコンビニやら、果ては宝くじにいたるまで、誰も彼もが浮き足だっているみたいだ。  プレゼント用だろうか。有名チョコブランドの紙袋を手にした美人とすれ違う。そして、その美人さんは明らかに俺の隣を歩く幼馴染を結構な熱をこめて横目で追っていた。まあ、よくあることだ。 「怜人、さっきお姉さんをガン見してたでしょう」 「うん?」 「やらしー」  お前もよく見ているねえ。 「別にいいだろ。バレンタインに一生無縁なモブは、チョコを持っている美人に過剰反応するようにできているんだよ」 「無縁って決めつけることはないと思うけどな」 「単なる事実を述べているだけだ」  自分で言っていて実に悲しくなってくる話だ。  一方、聖はちょっと不機嫌な顔になっていた。何が気にくわなかったのか、基本的にいつもニコニコとしているこいつにしては珍しい。
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