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また仲間が減っちゃったよ、とこぼす。チョコ選びどころではなかった。ちらちらと、倖之を悲しそうに見上げてくる。
本当に――馬鹿だ、と倖之は瞑目した。
「……理由が、知りたいか」
あえて問えば、ぱっと体が起き上がる。見下ろす柊の真剣な表情に……はあ、とため息をついた。
「バレンタインは、どんな日だ」
「チョコレートの日」
即答した頭を軽くはたく。
「常識で、答えろ」
「常識……」
やや呆然として考え込む姿が、やっぱり普通ではありえない。それでも一応、しばらくしてからああ、と手を打った。
「チョコレートをあげる日、だ」
「一応、認識はあったのか……」
答えが出せたことに質問しておきつつ、倖之は驚いた。毎年毎年、チョコレートを買う話しか持ってこなかった柊のことだ。実はなぜチョコレートが溢れる日なのか、知らないかと思っていた。
一方、柊の方は納得できない、とばかりに首をひねった。
「えっと……もしかして、倖之ちゃんチョコレート欲しいの?」
「……」
「でも前は、もらうとキリがないから、全部拒否するって」
「……」
「いくら甘党でも限度があるって」
「……」
「あ、義理チョコは反対派? じゃあ別にバレンタインはあってもいいよね?」
「……」
きょとんとしながら続くセリフに、デスクチェアの倖之がだんだんとうなだれる。
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