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「年取って変わったの?」
「年取っては余計だ!」
はあ、と苛立ちを吐息と一緒に吐き出す。立ち上がって、柊の隣に胡坐をかく。あっさりとその距離を許す、まだどこかあどけない柊と真正面から向き合った。
「そうだって言ったら、どうする?」
「どうって……」
「お前に、チョコをくれって言ったら?」
距離が近くなった分、甘い香りが揺らぐように、柊の戸惑いも伝わってくる。チョコレートの香りを消すと言って、香水は絶対につけないし、化粧も薄くはたくだけ。飾り気なんてないのに――いつだって目が離せない。
「どうするって……えーと。ど、どんなのがいいとか」
「なんでも」
「なんでもっ!? こだわりなしってこと? あのお菓子にうるさい倖之ちゃんがっ」
「ああ。値段もブランドもどうでもいい」
ただ――気に食わない。
絶句する柊が――チョコレートにしか目がいかない、彼女の両目が。
自分の隣にいて、倖之の自室に入り込みながら、ちらとも倖之のことを意識しない、馬鹿な元・妹分が。
すべてを持っていくチョコレート。あふれさせるバレンタイン。
月日を重ねるごとに、いっそ消えてしまえと願う時間が長くなっていた。
「ただ……」
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