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理解しない間抜け面の、小さく開いた口にチョコを押し込む。うぐぅ、と変な声がしても、ちゃんと中へ入れたのはチョコレートへの愛ゆえだ。
深く味わえない、などと文句が来そうだが、そこはそれ、自業自得だ。いくら気心が知れていても、帰宅を玄関先で待ち構えているのはやめてほしい。そもそも、倖之は一人暮らしなのだから……色々と、問題があるし間違っている。目の色が変わった柊に、今、忠告しても無駄なので言わないだけだ。
だがまあ、一応、事情も知っている。
「親父さんの前じゃ広げづらいんだろ、それ」
「う……うん」
柊の父、昌玄は、小さいながらも自店舗を構えるパティシエだった。が、作るのはケーキやクッキーなどのガトーが主で、いわゆる「ケーキ屋さん」だ。チョコレートは扱っていない。
柊は父親の作るお菓子が大好きだ。どんなに高いケーキより、父の作ったショートケーキやタルトに敵わない。
けれど。
一番好きな「甘いもの」は――チョコレートなのだ。
同じような製菓に属している上に、まさかそんなことは言えない。バレンタインチョコを贈るぐらいなら問題なくても、バイト代をつぎ込んで買うチョコを選んでいるなんて。
「いつかばれたらどうしよう……」
「……」
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