1人が本棚に入れています
本棚に追加
ろう。
特定の人への愛は、水が入っているコップのように、時に溢れたり、表面張力を保つようなものだ。光は何事においてもわかりやすいから、溢れているときは一目瞭然だ。しかし、光にとっては俺はいつも張力で固定されているように感じているのかもしれない。
簡単には言えないが、愛というものをいつか信じてほしいと切に願う。だから俺は、すぐにペンを手に取った。
冷蔵庫からキンキンに冷えたお皿を取り出している。
なんだ、ちゃんとうまくできているじゃないか。
光が作っているのはトリュフだ。初めてのバレンタインでトリュフをくれたとき、その甘めの味が最高に美味しかった。人生で初めてそのとき食べたのだ。また作って、とお願いしたところこうして今まで続いているということだ。
あとはココアパウダーを振りかければ完成だろう。
案の定光はパウダーを振るいにかけ始めた。それを俺は真正面から見守る。自分の予想以上にうまくできたからか、ご機嫌の様子だ。
「お前わかりやすいね。」
「ん、あと、もう少し…」
完成したチョコを丁寧に箱に収めていく。わざわざそんなものに入れなくていいのに、と笑うが光は極真剣に1個1個詰めている。それをいつもの場所へ持っていく。
「ハッピーバレンタイン、翔」
ありがとう、光
でもそこに俺はいないよ
俺はお前の右後ろだよ
「翔が他界してから3回目のチョコレートだよ。時が過ぎるのは早いね。」
あぁ、食べたいなぁ。せっかく作ってくれたのに。
光が仏前にお供えしたチョコレートの横に小さなメモ用紙が置いてある。俺が生前書いた光への最後の想いだ。
ちゃんとご飯を食べて、ちゃんと睡眠をとって。
自分の幸せを、どうか忘れないで。
ありがとう。
最後の最後に、俺はこんな稚拙な文章しか残せなかった。
でも、これでいいんだ。何を書いてもしっくりとこないから。
精一杯の愛を伝えたかっただけなんだけどね。
伝えるって、すんげぇ難しいや。
光は泣いている。
バレンタインなんて嫌いだ。
俺の大事な人を泣かせるから。
最初のコメントを投稿しよう!