第3章 歯車は動き続ける

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「羽奈とは、もう二度と会う事は無いと思っていた。だけどまさか結衣の妹として紹介されるとは思わなくて、あの時は正直動揺した。それでも、この結婚は会社のためにも成立させないといけないと思って、羽奈には冷たい言葉を言った。でも、お前の辛そうな表情を見た時、胸が苦しくなった。その答えが何か分かっていたけど、気付かない振りをした。それで周りが喜んでくれるのなら良いんだと。でも…お前はどんどん俺の心に入ってきて、気付かない振りができなくなってきた。最終的に山下さんから自分の気持ちを大事にした方が良いって言われた時、羽奈への想いが溢れてきた」 海斗の話を聞いて、私は嬉しかった。海斗も同じように苦しんでいたこと、同じ気持ちを持っていたこと。それが分かっただけでも十分だ。 そして私は、自分でも不思議なくらい落ち着いた声音で言葉を発した。 「それでも、海斗は姉さんのところに行くんでしょ?」 私が言った言葉に、海斗は驚いたように目を見開いた。 「…どうして?」 「だって、海斗は従業員の人達を守るために姉さんと結婚したんだもの。今離婚したら、海斗が守ろうとしたものがダメになっちゃう。だから、海斗は姉さんのところに行かないといけないでしょ」 私がそう言うと、海斗はキスをしてきた。 甘いのに、どこか胸を締め付けられるようなキス。 唇を離すと、苦しそうに顔を少し歪めている海斗の顔があった。 「時間がかかるかもしれない。それでも、会社を何とか立て直して、結衣にも分かってもらうつもりだ。だから…」 「…うん。大丈夫」 「待っててほしい」も「待っている」もお互い言わなかった。 そんな言葉で縛ってはいけない関係だから。 私達の関係は、きっと許されないものだから。 こんなに強く想っているのに、その想いすら言葉にしてはいけないなんて。     
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