真・バレンタインデー

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 他にも、ウァレンティヌスは結婚したばかりのカップルに庭から摘んできた花を贈っただとか、監獄に入れられた際、目の見えない看守の召使の娘が説教を聞きに来ていたが、ある日、娘の目が見えるようになるという奇跡が起きたことで彼女の家族がキリスト教に改宗、それに激怒した皇帝により処刑される前日、彼がこの娘に宛てて「あなたのヴァレンタインより」と書かれた手紙を送ったなどというエピソードもあって、それがバレンタインデーに花やカードを送る習慣の起源となっている。  いずれにしろ、この「恋人の日」であるというのが欧米における(セント)バレンタインデーの本質であり、けしてチョコレートの日などではない。  プレゼントとしてチョコレートを贈ることもなくはないが、それはあくまで選択肢の一つであって、むしろウァレンティヌスの故事にちなんで花や「From Your Valentine」もしくは「Be My Valentine」と書かれたカードを送る方がメジャーだ。  なのに、日本のバレンタインデーがこんなことになってしまったのは、お菓子業界や百貨店の売上向上戦略だったと一般的には云われている。  しかし、意外やそのキャンペーンを張った当初はまるで流行らなかったらしく、消費者側が自主的に飛びつかねばこうまで浸透しなかっただろうし、本当の原因はよくわかっていないというのが実際のところだ。  だが、理由はどうあれ、日本のバレンタインが「チョコレートの日」であることはもはや動かしがたく、かくいう俺の通う高校においても―― 「ねえねえ、センパイにあげるチョコ、どんなのにした?」  だの…… 「ええ~どうしよ~! 手作りチョコとか引かれたりしないかな?」  だの…… 「今日の帰り、みんなでチョコ買いにいこうよ!」  ――だのと、教室内で耳をすませば、女子達が弾んだ声でキャピキャピ騒ぎながら、明日14日に向けて浮足だっている空気が嫌でも肌に感じられる。
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