真・バレンタインデー

5/11
前へ
/11ページ
次へ
「なんとおめでたい日本人の多いことでしょう……」  俺は片肘をついてその平和な光景を眺めながら、今月の初めと同じように独り言をぽつりと呟いた。  今の会話を聞いても、やはり「チョコレートの日」なのは公然たる事実であるようだ……。  それでも、あえて俺はこの本質を見失ってしまった(セント)バレンタインデーに異を唱えてみようと思う。  といっても、本来の欧米式に「男女でお互いに親しい相手にプレゼントを送ろう」などという甘ったるいものではない。  俺に言わせれば…いや、俺達(・・)に言わせれば、そんな後付け話を基にしたものなどはまだまだチャラい。  2月14日は、聖ウァレンテイヌスという聖人が絞首刑に処せられた日なのだから……。 「聖人の記念日なんだ。もともとの意味を忘れた輩に、ちゃんとその聖人のことを思い出させてやらないとな……」  明日の一大イベントをネタに、女子達の弾む声があちこちから聞こえてくる朝の喧騒の中、教室の窓辺の席に独り座る俺は、若年層なら誰しもが使っている某SNSを使って、俺が主催するこの学校の秘密結社的部活動〝原点回帰倶楽部〟の同志たちへメッセージを密かに送った。 〝以前よりの計画通り、各自、決められたエリアでの務めを実行されたし。また、女子結社員は協力のもと、例のもの(・・・・)の準備、怠りなきよう〟 「さて、明日が楽しみだな……」  そして、またも誰に言うとでもなくそう呟くと、淡い期待を抱く一般的な男子とはまた違ったドキドキ感に胸をときめかせながら、2月14日の訪れるその時を待った――。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加