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さらに、愛の告白をする際の定番スポットとなっている、体育館裏のない広場でも……。
「――ほらあ、早く行きなって!」
「勇気出して! ファイトっ!」
「う、うん……」
付き添いの友達二人に背中を押され、見るからに純朴そうな一年生女子が、真っ赤な顔をして先輩男子の前へ歩み出る。
「は、話って何かな?」
その部活の先輩である長身の男子生徒は、わかっているくせに少々緊張した面持ちで女生徒を見下ろしながら尋ねる。
「あ、あの……せ、先輩っ! こ、これ、受け取ってくださいっ!」
女生徒は顔を俯けたまま目を思いっきり瞑り、腰を直角に曲げると両手でハート形の大きなチョコレートを差し出す。
「…………ありがとう。すごくうれしいよ」
僅かの間の後、彼も彼女に少なからず好意を抱いていたものか、穏やかな笑みを浮かべてそのハートを受け取った。
「ハァ…!」
「やった~っ!」×2
その返事に女生徒はパッと顔色を明るくして潤んだ瞳を上げ、外野の友達二人も背後で歓声を上げながら飛び跳ねる。
「これ、今開けていいかな?」
「…え? あ、は、はい! ……でも、うまくできてるかちょっと心配だな……」
一方の先輩は、もらったチョコをさっそく開けてみようと優しげな声で許可を求め、女生徒は慌ててそれに頷いた後、今更ではあるが恥ずかしそうに再び俯いてしまう。
「だいじょうぶだよ。おまえ、お菓子作り得意だったろ? それに、たとえ失敗作だったとしても、おまえからもらったチョコレートならなんだってうれしいよ……」
そんな純真無垢でカワイらしい女生徒に、先輩はうれしくなるような台詞を口に包み紙を開け始めるのだったが……。
「ハァ…先輩…………? 先輩?」
その言葉に熱いものが込み上げ、まうます円らな瞳を潤ませる女生徒であるが、先輩はハート形の箱の蓋を開けたところで、なぜだかピタッと固まって動かなくなってしまう。
いや、それどころか見る見るその顔からは血の気が引いてゆき、大きく見開かれたその瞳は小刻みに震えて箱の中身を凝視している。
「先輩? …………ゲッ! な、何これっ!?」
呼んでも返事のない先輩に、おそるおそる近寄って箱の中を覗いてみると、同じく女生徒も目を真ん丸くして、カワイイ見てくれとは裏腹な奇妙な声を思わずあげてしまう。
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