ヒトミシリ

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ヒトミシリ

 紆余曲折を経て、あたし―小笠原怜(おがさわられい)―にも、恋人というものができた。  中学、高校、大学…ときて、その間に何度か、一応はそういう関係になった人も、いなくはなかった。けれども、長続きしたのは、大学生の時に付き合った人くらい。しかも、大学生活四年間の間で、何度も付き合ったり離れたり、付き合ったり離れたりを繰り返していた。それの原因はあたしにはなくて、相手が他の女と付き合ったり、それがダメになったらあたしのところへ戻ってきたり…みたいなことが何度も起こったというのが実際のところだ。それを何度も許してきたあたしもあたしだけれど、相手も相手である。  社会人になって、そういう浮ついた話からは距離ができていた。もとい、仕事を覚えるのに精いっぱいだったり、あたしの会社はいわゆる「ホワイト企業」というものからはかけ離れた会社で、残業続きで恋愛沙汰どころではなかった…というのも正直なところである。距離的にどの程度か? 地球で言えば、日本とブラジル。山手線で言えば、池袋から浜松町くらいの距離がある。つまりは正反対だ。  彼は、同じ会社に勤める同僚で、あたしの一個上だ。あたしは事務で、彼は営業。さすがは営業マンということもあって、人当たりもよく、コミュニケーションの能力も高い。そういう意味でまた、あたしとは正反対の人間だと思う。  一月の札幌は、夕方四時をまわれば、空が放つ色よりも、街路樹のイルミネーションや街灯、ビルなどの窓から漏れる明かりが勝るようになる。子供の頃から、家々の明かりを眺めながら歩くのが好きだったあたしは、その風景が嫌いじゃなかった。  けれど、それが嫌いになったのは、今年のバレンタインの日からだ。  あたしは、よりにもよってバレンタインデーに、彼から、別れを告げられたのだ。
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