御世おくり

10/10
前へ
/10ページ
次へ
「でもおまえ様は、ほとほと運が良いぞ」 「年の途中で平成の御世が終わるからね」 邪悪な二柱が冷たい声で告げた。 その刹那── 全身の神経を剥がされたような、凄まじい激痛が俺の体を引き裂いた。 街は再び時を取り戻した。 「では平成の者よ、もう逢うこともあるまいぞ」 「あなた様の無私の愛、しかと受け取りましたよ」 空浮かぶ船から大黒天と弁才天が別れを告げる。 その手には、血が滴る肉塊がにぎられていた。 俺は悪態をつきたかったが、口からほとばしる絶叫でそれどころではなかった。 平成の元号は四月末で終わる。 それと同じで、御世おくりも途中で許された。 三分の一の肉体を七福神に剥ぎ取られ、俺の命はかろうじて残っていた。 ──御世おくり 終。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加