第1章

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地獄の光景 「気がつくと、わしは美しい花々に囲まれていた」 「それは、極楽の光景じゃないの?」   祖母は、額に一筋の深いシワを作って勉の言葉をさえぎった。 「人の話は最後まで聞くものだよ! お寺にある地獄の絵が、全てではないのじゃよ。お前は、わしの体験を知りたくないのかい?」 「ごめん。ごめん。へそを曲げないで続きを聞かせてよ!」 「しょうがないねー。……えーと、どこまで、話したかのう?」 「お花畑の最初だよ!」 「あぁ。そうそう。そうだった。……すみれ、ポリアンサス、ひまわり、シクラメン……など、咲く季節がバラバラの花々が咲いていた。それらの花が、見渡す限りの大地を覆っていたので、花の香りが混ざり合った悪臭にひどく悩まされた。悪臭が胃にまで入り込み、私は、何度も何度も吐いた。  何気なく空を見上げると、楕円形をした四つのルビー色の太陽があった。四つの太陽が、ジリジリと身をこがすのだ。地平線まで、見渡す限り誰もいないようだ。こんなにもわびしい孤独感を味わったのは、生まれて初めての経験だった。  その時、誰かの文章が脳裏をよぎった。 「人は、悪霊にとりつかれて死ぬのではない。誰にも理解されない孤独で、心が折れて死ぬのだ!」  まさに、私が置かれている境遇を端的に表現している文句である。それ程までに、私にとって孤独は辛かったのだ。  私は、はるか遠方に茶色の葉を茂らせた樹木を見つけた。余りにも熱いので、日蔭のある樹木を目指して一刻も早く走って行こうとした。だが、両足は、鉛らしい重くて人の頭程もありそうな大きな玉に、クサリでつながれていたから、前のめりに倒れてしまった。しかし、何とか前に行こうとして、匍匐前進≪ほふくぜんしん≫して、少しずつ前に向かって進んだのだった。  ところが、顔中に花々がまとわり付いて来て、花と体から噴き出す汗に、体中が花にまみれたのだ。花々がまるで生きている獣のように、体中に喰らいついてきたので、前に進むのは非常に困難だった。
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