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だから一般的に友人と呼べるような友人はいないし、異性を好きになったこともない。
とはいえ、そういう感情が分からないわけではない。恋愛小説を読めばどきどきするし、スポーツ観戦をすれば興奮もする。おまけに言えば、国会中継を見て怒ることだってちゃんとできる。
そう、本当にただ自分の周りの人間に興味関心がないだけなのだ。
たった一人を除いては。
そのたった一人とは、去年の初夏に出会った。
大学三年になってつまらない必修科目はだいたい取り終わり、他の学部棟に顔を出すようになっていた。ただの興味で取った哲学の講義。その何回目だったろうか。よくは覚えていない。けれど梅雨に入るよりは前だった。
その回の題目は、物の本質はどこに在るか、というものだった。
テセウスと呼ばれる船がある。
テセウスはAからZまでのパーツで構成されている。
テセウスが航海を繰り返すうちにパーツは順々にだめになっていくので、AをAダッシュ、BをBダッシュというようにパーツを交換していく。この時取り外されたAやBは捨てずにとっておく。
最終的にAからZまですべてのパーツがAダッシュからZダッシュに換わった時、もとのAからZで船をつくる。
さて、この時テセウスはどの船のことを指すのか。
パーツAからZの船か。
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