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この意見から発展して、わたしはこの講義中に教授とのやり取りを繰り返した。それは大多数の意見と違っても自分の正当性を主張したかったからではなく、ただその哲学が面白かったからだ。自分の意見を言語化して、考えが深まっていくのが楽しかったからだ。
その講義が終わった後だった。
「あの」
廊下で後ろから声をかけられた。振り向くと、そこには名前の知らない男子学生が立っていた。名前は知らなくとも、その存在は知っていた。同じ哲学の講義を取っている学生で、よく自分の意見を言っている学生だった。この回の講義では、あまり発言していなかったと記憶している。
振り向いて目が合うと、男子学生は小走りでわたしに近づいて横に並んだ。
「文学部三年の江倉樹です。えっと……」
わたしの名前を教えてほしいのだろうということは、何となくわかった。
「史学部三年、三村奈々」
「三村さん。あの、さっきの意見、もっと詳しく聞かせてもらえませんか?」
「はい?」
それが江倉との出会いだった。
面喰っていたわたしをよそに、江倉はその場で自論を展開し――わたしとは立場的に同じだったけれど、細部には違いがあった――それにつられてわたしも講義で話しきれなかったことを話した。ちょうどお昼だったということもあって二人で学食へと行き、お互い次のコマが空いていたので一時間以上は話していた。
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